第３次中東戦争では大敗を喫したエジプト・アラブ軍でしたが、シナイ半島を占領したイスラエルとスエズ運河の西に布陣した エジプト軍の間では小規模な紛争が続きました。

　第３次中東戦争の戦訓からエジプトはソ連に歩み寄り、大量のミサイル，戦車の供給を受け、遂に１９７３年１０月６日エジプトと シリアはイスラエルに対して戦端を開きました。

　イスラエル側は、第１次〜第３次中東戦争の勝利とエジプトサダト大統領のソ連に対する姿勢に油断をしていたため、全くの奇襲 となりました。
　しかし、歴戦のイスラエル空軍は直ちに反撃に出ます。

　そこで待ち構えていたのは第３次中東戦争の戦訓から考え出された「防空コンプレックス」、即ち、高空から飛来する敵機にはベト ナム戦で活躍したＳＡ−２やＳＡ−３のミサイル、中空に対しては最新鋭のミサイルＳＡ−６（ゲインフル）、低空の敵機には戦車 の車体にレーダー照準の４連装の機関砲を載せたＺＳＵ−２３（シルカ）、これ等によってイスラエル空軍の支援を無力化してしまいました。
　イスラエル空軍は開戦初日だけで３０機もの損害を蒙ってしまいます。

　特に、ＥＷの分野では「ＳＡ−６」が新兵器として登場しました。

　これまでのミサイル管制レーダーは電波を間欠的に発射するパルスレーダーでした。
　このパルス電波を受信するためには比較的簡単な容量結合型の受信機で良かったのですが、この新型ミサイルＳＡー６の管制レーダ ーは、連続的に電波を発射するＣＷレーダーだったのです。

　この電波は今まで使われていた「レーダー警戒装置」の容量結合型受信機では受信できず、ＳＡ−６の発射を警戒する事が出来ません。 　イスラエル空軍にＳＡ−６ショックが起こったのです。

　このため、イスラエルは急遽アメリカの会社にＣＷ電波警戒専用の装置を発注しました。
　一方、地上ではイスラエルとエジプト・シリア連合軍による大戦車戦が戦われ、イスラエルは開戦２日間で５５０両の戦車を失い ました。
　このように、緒戦では優位を占めたエジプト・シリア軍でしたが、歴戦のイスラエル軍は徐々に体制を挽回し、スエズ運河やゴラン 高原で攻勢に転じます。

　この状態でエジプトサダト大統領は、「イスラエル軍不敗神話」は破れたとして停戦準備に入ります。
　そして１０月２２日国連安保理事会で停戦が決定しました。

　この後エジプトはイスラエルに歩み寄り、１９７９年エジプトとイスラエルはアメリカのホワイトハウスで平和条約を調印し、中東は 対話と共存の時代に入っていったのです。
しかし、その後中東に平和は訪れたでしょうか？

エピソード：

（１）ＳＡ−６ミサイル

　第４次中東戦争で出現した新型地対空ミサイルＳＡ−６は、その管制レーダーが新しいばかりでなく、推進方法も画期的なものでした。
　現在、ミサイルの推進方法には、固体ロケット，液体ロケット，ジェットエンジンの３種類があります。

　固体ロケットは簡単なのですが推進力の制御が難しく、航続距離が短いと言う欠点があります。
　宇宙ロケットでお馴染みの液体ロケットは推進力の制御が出来、航続距離は長いのですが、前線で使用するには複雑過ぎます。
　ジェットエンジンは推進力の制御も簡単で、航続距離も長く、前線での使用も比較的簡単です。
　しかし、空気を圧縮しなければならず、垂直発射が困難と言う欠点があります。
　このように、推進方法には一長一短がありますが、それまでのミサイルではどれか１つの推進方法を採用していました。

　ところが、ＳＡ−６は「ハイブリッド推進」と呼ばれる新しい推進方式で、発射には固体ロケットを用い、固体燃料を使い果たして空になったら、その部分をラムジェットエンジンとして用いています。
　このように、推力制御，航続距離拡大，発射の簡便さを満足させると言う大変巧妙な方式です。

　ＳＡ−６以後、各国はこの方式を真似て色々なミサイルを開発しました。
　もちろん、「人まね世界一」の日本も空対地ミサイルにハイブリッド推進を採用しています。

（２）電子戦シミュレーション

　中東戦争（その１）でお話したように、第３次中東戦争ではイスラエルはエジプトのスティックスに敗れましたが、これを重大な戦訓として対策を練っていました。

　 　その１つとして、イスラエルは独自で艦対艦ミサイル「ガブリエル」を開発しました。
　しかし、ガブリエルはスティックスの半分の射程しかありません。
　そこで、もう１つの対策として電子戦シミュレーションに力を入れたのです。

　すなわち、スティックスミサイルの管制レーダーに妨害をかけながら接近し、自軍のガブルエルミサイルを命中させる訓練です。

　この訓練は第４次中東戦争で見事に実を結び、イスラエル海軍のミサイル艇５隻はシリアのラタキア沖でシリア海軍の艦艇６隻を全滅させてしまいました。
　シリア海軍が発射したスティックスミサイルは、全てイスラエルのレーダー妨害で狂わされ、ガブリエルミサイルによって撃沈されてしまったのです。

　この電子戦シミュレーション訓練は通常の戦争訓練とは異なり、レーダースコープや各種の電子機器表示器を見ながら行う、言わば大掛りなＴＶゲームのような訓練で、訓練と実戦にはほとんど差がありません。
　このため、訓練の成果が明確に出たのです。

　以後の戦争では益々この様な傾向が見られます。
　これが更に進んで、将来、国際間の紛争を電子戦シミュレーションの勝敗で解決できると良いのですが・・・